ヒューマンファクターズ ヒューマンエラー防止へのアプローチ 第5回 “最近の動向:民間機 :ヒューマンファクターズ”

最終回の今回は、民間機(特に民間航空エンジン)業界の“ヒューマンファクターズ“の動向を紹介し、前回までに紹介した国内の航空宇宙業界の取組みとの関連を考察します。
・AS13100について*1
民間航空エンジンに関わる新しい要求であるAS13100は2023年1月よりスタートしました。JIS Q 9100の補足要求としてP&W、Rolls Royce、GEなどのエンジンメーカからこの新しい要求がフローダウンされている、あるいはこれから適用という会社も多くなってきたと聞いています。
この要求の特徴は、“品質マネジメントシステムのプロセスに、ヒューマンファクターズの管理を含めるこ”とです。キーワードは、“訓練”、“オープンな報告文化の醸成”、ヒューマンファクターズを考慮した“調査”・“対策”です。
更に、組織内の展開のために、ガイダンス文書(RM13010)が用意されています。
・RM13010:ヒューマンファクターズの概要*2
この文書の1.適用範囲では、“AS13100のヒューマンファクターズの必須要求事項を実現するための解説及び学習を行うためのガイダンス文書”となっています。内容は、以下の構成から成っています。
1 適用範囲
2 目的
3 関連文書 :IAQG SCMH 3.6.2項
4 定義
5 ヒューマンファクターズの解説
6 リーダーシップコミットメント
7 マネジメントシステム要求事項
7.1 ヒューマンファクターズの反映先
7.2 訓練 :訓練シラバス
7.3 インシデント報告
7.4 オープンな報告文化 :Just Culture
7.5 ヒューマンファクターズを考慮した調査 :AS/JISQ9100 10.2項
7.6 ヒューマンファクターズをモニタし、継続的改善 :なぜなぜ分析、PFMEA、等
なお、AS13100の項目との対比を整理すると、以下になります。
(AS13100) (RM13010)
4.4.3 組織のQMS :7.1
5.1.1.1 トップマネジメント :6
5.2.1.1 方針 :6
7.3.1 ヒューマンファクターズの認識 :5、7.1、7.2
10.2.3 原因調査、適用の基準、手法 :7.3、7.4、7.5、7.6
次に、4.定義に記載の用語から、重要なキーワードを紹介します。
ヒューマンエラー(Human Error)
:意図しない結果を生じる人間の行為
ヒューマンファクターズ(Human Factors)
:ヒューマンエラーを引き起こす要因について、その特性を理解し、それらを管理する一連の活動やその学問体系
ジャストカルチャー(Just Culture)
:すべての従業員が、リスク・発生・エラーを、適切な処分を恐れることなく、オープンに報告できると感じられるようにする文化
オープンな報告(Open Reporting)
:不適切な処分を恐れることなく、一貫性のある公正な方法で対処されることを確信した上で、秘密厳守かつ匿名で懸念を表明できる報告システム
なお、RM13010は見直しが進行中で、項目間で用語・表現・考え方の不整合が散見される個所も見受けられますので、ご留意する必要があります。
当社で開催しているセミナーでは、この動向を踏まえたうえでのセミナーの構築を進めています。
・国内の取組みとの対比(類似点)について
今回のテーマである“ヒューマンファクターズ”は、人の特性・考え方に関わりますし、紹介したガイダンス文書で多用される用語については、日本企業の実態を配慮した表現へ“翻訳”しなおす必要があると考えています。前回までに紹介した国内の航空宇宙業界の取組みから、類似点を整理してみましたので、参考に紹介します。*3、*4、*5
(AS13100/RM13010) (国内業界の取組み)
7.2 訓練 :事故展示・事例教育、研修、各種セミナー
7.3 インシデント報告 :品質ヒヤリハット、異常報告
7.4 オープンな報告文化 :小集団活動、自発報告制度、変化点管理
7.5 ヒューマンファクターズを考慮した調査 :ハンドブック(JAXA)、ガイダンス文書(JAQG)
7.6 ヒューマンファクターズをモニタし、継続的改善 :ハンドブック(JAXA)、ガイダンス文書(JAQG)
・まとめ
当初、“作業ミスは古くて新しいテーマだ“といわれて取組みはじめました。その後、“ヒューマンエラー”、“ヒューマンファクターズ”とキーワードは変遷しましたが、”人と人との関係・ふるまい“を見える化する作業であったと思います。何か起これば、現場に出向き、事実を把握し、経緯を整理し、関係者・先輩・有識者の意見に耳を傾け、真摯に取り組むことでありました。この姿勢は、品証スタッフに期待される力量・感性ではないでしょうか。
皆さんの企業、組織に会わせた意識の醸成に取り組んでください。
以上で、「「ヒューマンファクターズ ーヒューマンエラー防止へのアプローチ」」についての投稿を終わります。
(参考文献)
*1 AEROSPACE STANDARD AS13100:航空エンジン設計および製造組織に対するAESQ品質マネジメントシステム要求事項
*2 RM13010:ヒューマンファクターズ 、Revised April 24,2023
*3 SCMHガイダンス文書 3.6.2章:新製におけるヒューマンファクタ
*4 SJAC 9068A:QMS-航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項-強固なQMS構築のためのJIS Q 9100補足事項
*5 JAXA JERG-0-018A:ヒューマンファクタ分析ハンドブック
(当社開催セミナー)
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(関連コラム)
民間航空エンジンに関する品質要求AS13100_ヒューマンファクターズはやっぱり人が大事です
以上
文責:大脇 聡