【第2回】宇宙産業に期待される品質マネジメント 継続したサービスの提供とは

●ISO9001/JIS-Q-9100 
 序文では、「品質マネジメントの採用は、パフォーマンス全体を改善し、持続可能な発展への取組みのための安定した基盤を提供するのに役立ち得る組織の戦略上の決定である。」で始まります。
 さらに、「この規格は、JIS-Q-9000に規定されている品質マネジメントの原則に基づいている。(中略)組織のパフォーマンスを改善するための典型的な取組みの例が含まれている。」と続きます。

 「顧客から要求されたのでJIS-Q-9100認証を取得する」という声をよく聞きます。私も現役の時には、サプライヤの方々に「認証取ってください。最低限品質マニュアルは整備してください。」とお伝えしてきました。
 今後は発想を変えて、認証取得を目的にせずに、新たに航空宇宙業界のビジネスへの参入を考えるにあたって考慮しておきたい“取組の例”と考えて、戦略上の決定をされてはいかがでしょうか?
 ただし、海外への販路・サプライチェーンを目指される場合は、グローバルスタンダード(AS/EN/JIS-Q-9100)の土俵に上がることが必要になるでしょう。

以降、私の経験から推奨する取り組みの例を紹介します。

●QMS視点での試作と量産の違い
繰り返し生産・運用型のH-IIAロケットの留意点は、前回のコラムで紹介しました。(2024.5.28コラム)

 今回は、QMS視点で、試作と量産の違いを考えてみます。
 試作段階は、実機段階(繰り返し生産、量産)の設計仕様・製造工程・検査計画等を確定するための活動の時期ととらえることができます。宇宙機では、システム安全・信頼性・コンフィギュレーション管理を徹底します。(2024.6.11コラム)
 試作品製造の視点では、設計者が現場で立会、直ちに設計変更が伝えられ、仕様を理解している設計者自ら(技術スタッフ)がものづくりを行い、試験を実施し評価すると思います。

 一方、量産(実機)製造の段階は、設計からのアウトプット(図面、仕様書等)に従い、製造部門が工程設計し作業指示をプランし設備を準備し、(仕様に合致していること確認する)検査が行われるのが、一般的な製造管理と思います。設計からのアウトプットが製造へのインプットになり、実機製造が継続できるように準備がなされるでしょう。(8.5製造及びサービス提供)
 ここでは、設計部門と(量産段階の)製造部門を組織するための資源管理、つまりはトップマネジメント(プロジェクトマネジメント)の決断が必要です。決断の根拠となりえるのが“品質マネジメント規格”ではないでしょうか。三菱航空機のような“製造委託”というビジネスモデルもあります。一方スペースXは徹底した“内製化”のようです。

●量産の品質、サービスの品質
 量産の考え方は、大きく2種類あると思います。
 ➀仕様変更しないで短期間で製造・販売(見込み生産型)
 ➁量産仕様で製造し販売、ユーザーからのフィードバックによる設計改善を繰り返して製造・販売(繰り返し生産型)。
 民間で輸送サービスを行っているスペースX社は、継続して衛星を打ち上げる機会を提供し続けるという意味で➁に近いと思います。これこそが、“サービスの品質“といえるのではないでしょうか。

 実は、H-IIAロケットは開発時4機(最初は8機)打上げ/年を目指していたこともあり、Nロケットで米国から学んだ繰り返し生産のやり方に、量産製造のやり方(社内的には、自動車を参考にした民間航空機)を参考にして、製造部門・品証部門が連携して製造準備に取り組みました。(2024.6.25コラム)
 開発(試作)段階から、製造部門が製造準備を開始(技工品接点活動:コンカレントエンジニアリング)することで、品証部門にとっては人材育成の意味でも有効でした。

●内製か、専門メーカへ外部委託か
 量産の製造方式として、➀内製(内作)と➁外部委託(製造委託)が考えられます。自動車・パソコン・家電等はすべて、マザー工場と国内外企業・現地工場での製造(製造委託)となっています。JIS-Q-9100では“8.4外部から提供される・・・”(購買管理)が該当します。ポイントは、➀図面等の設計情報のみで製造部門へつなぐことができる、➁組織間で契約書(注文書)が介在、でしょうか。
 なお、自社はJIS-Q-9100認証を取得しなくても、サプライヤ要求はJIS-Q-9100ベースとすると、新規サプライヤの選定が書類審査(認証済品質マニュアル、航空宇宙の実績)で判断できるというメリットがあります。

 機械加工・特殊工程等の固有技術を取り扱ってる専門メーカでは、試作品を受注し、顧客(仕様要求元)とコミュニケーションをとって実機品製造に向けた準備を進めることが重要です。実機品の製造委託契約の受注を目指して、8.3設計・開発を適用除外にして、社内のQMS体系図・タートル図の作成・役割の明確化から始めるのが良いと思います。試作品の受注にも、JIS-Q-9100レベルの製造管理の仕組み(があること)が有利となるでしょう。

●まとめ
 今回は、“継続したサービスの提供”について、組織のあり方、サービスの品質、内製・外部委託の観点で事例等を紹介しました。ポイントは“最新情報(変更情報)の共有”です。
 JIS-Q-9100では、“文書化し管理し継続的に改善”、“変更管理“という用語が頻繁に登場します。航空宇宙業界の共通語と理解してはいかがでしょうか。同じ意識・同じ用語で仕事ができるのです。
 自社の組織で有効な・効率的なしくみを作るための参考になればと思います。

次回は、第3回:無人機と有人システム、“QMS上の留意点”です。

(参考文献)
JIS-Q-9000:品質マネジメントシステム−基本及び用語
JMR-001:システム安全標準
JMR-004:信頼性プログラム標準
JMR-005:品質保証プログラム標準
JMR-006:コンフィギュレーション管理標準

文責:大脇 聡