ジャストカルチャーとオープンレポーティング #2
AS13100要求事項の中に登場する『ジャストカルチャーとオープンレポーティング』をテーマにしたコラムの第二回では、原題がまさに『ジャスト カルチャー(公正な文化)』となっている
『 ヒューマンエラーは裁けるか 安全で公正な文化を築くには
JUST CULTURE:Balancing Safety and Accountability シドニー・デッカー 』
のプロローグの要約を、まずは読んでいただこうと思います。
~ プロローグ 「看護師のエラーが犯罪となるとき」 より ~
- マーラは集中治療室で25年間働いた看護師であり、妻であり、3人の子どもの母親である。
- 彼女は誤薬(点滴の調合間違い)により生後3ヵ月の女児を死亡させた業務上過失致死罪で、下級裁判所による2回の有罪宣告後、最高裁判所は、最後に真実を明らかにしてくれるものとのマーラの期待とは異なり、有罪判決を確定。
- 失敗の物語はとても単純なものだ。「私が間違えました」とマーラは自発的に非を認める報告を上司にした。
- 病院に勤める他の多くの人々にとって、マーラが自発的に自分の非を認めたことは神からの授かりもののようにありがたいことだったに違いない。マーラは繰り返し被告席に立つ羽目になるが、他には誰もそんな目には遭っていない。
- しかし、今回の出来事に他にだれも関与していなかったわけではない。
- 処方箋は読みづらく、それを書いた医師のサインもなかった。
- しかし、その処方箋は忽然と姿を消し、二度と現れなかった。
- 医師が、処方箋を印刷するために立ち上がって、3メートル歩いて別のコンピューターを使うことをせず、代わりに走り書きで処方箋を書いた点についてはどうか?
- 夜勤の看護師(マーラがそれを引き継ぐ)は、なぜ見づらい字で書かれたサインもない処方箋を受け取ったのだろうか?彼女は他の医師の力を借りて処方箋の内容を推測し調剤していた。
- 医師が、仮眠中にささいな理由で起こされるとひどく機嫌が悪くなることについてはどうか?
- 一体誰が、小さな子供ではなく、大きな成人を治療するために設計されたICUへ小児科病棟から子どもを移そうと考えたのだろうか?(使う薬剤の習慣が違うなど)
- マーラが初めて告訴された同じ年に、300以上の深刻な投薬エラーが当局に報告されていた。投薬による被害は「ありふれた事例」:医療システムの構造の一部:なのである。
- 証拠品として取り扱われた薬品の箱:奇妙なギリシャ語の造語、すべての箱は白く緑や薄青色の文字、容積と質量の組み合わせ:を裁判官が見て、自分が目にしたものを十分に理解できないかもしれない。裁判官は、看護といった特定分野の用語や実務を理解する専門性を必ずしも持っていない。その事実が文脈内で何を意味するかは、ぼんやりとしかわからないだろう。
いかがでしょうか。
考えさせられる事件であり、そして以下のことをぜひ考えてみていただきたいと思います。
あなたが 同僚(夜勤の看護師など) (処方箋を書いた)医師 病院(の管理者) 当局(の責任者)・・・だったとしたら
“私にも責任があります” と申し出ますか? “説明責任がある” と思いますか?
ではこの一件のように、他の人は口を閉ざしマーラひとりの責任にして、どのような改善が進むでしょうか?
シドニー・デッカーは言います。
説明責任を果たそうとするときに、罪になるかもしれないと言われれば、正義を貫いたり安全性を改善したりすることはそう簡単なことではなくなる。
公正な文化では、人々が以下を安心して行うので、安全性も向上する。
- 改善すべき問題に関する情報を、その問題を改善することのできる上層部や担当部門に伝える:失敗に関する説明責任を果たす
- 組織が法的防衛や責任逃れに資源を使うのではなく、安全性にかかわる改善に資源を投資することを促す:失敗から学ぶ
もちろん、このマーラの一件は「業務上過失致死罪」という非常に重く特別なケースととらえることもできますが、日常の業務でも「会社に損失を与える」、「自分が所属する職場の信頼を失いかねない」、「自分自身の評価や処遇などの面で自分の幸せな家庭にも少なからず影響する」・・・そんな時、その一件に関与した人たちが、責任逃れをするのでなく安心して失敗に関する説明ができ改善が進められるか、『ジャスト カルチャー(公正な文化)』という言葉が意味するところといえるでしょう。
文責 原田 直弥
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