あるQAマンの体験記 第10回 液体ロケットエンジン総点検
あるQAマンの体験記 第10回 液体ロケットエンジン総点検
H2A、H2Bなどのロケットが種子島から打ち上げられ連続成功48回の素晴らしい成績を更新し続けています。打ち上げ成功率98%というのも非常に高い成功率で日本の宇宙開発のレベルの高さを感じます。
今でこそロケットを製造/検査する技術、打ちあげる技術も非常に安定していますが、開発当時は、当然のように問題が発生していました。そこでの経験を少し紹介します。
不適合対策というのは、航空宇宙製品のみならずあらゆる製品で重要な活動であることは、言うまでもないことです。実際に筆者が担当していた液体ロケットエンジンの開発でも、いろいろな問題が発生していました。そして、その問題に関して原因を突き詰め、図面/スペックの問題であれば設計変更で処置し、製造の問題であれば工程変更で改善し、対策効果の確認をするということを繰り返し繰り返しやっていました。
しかしこれだけでは終わらないということを何度か経験しました。不適合の問題のレベルにもよりますが、打ち上げミッションに関わる重大な不適合と判断された時には、当該部品の当該箇所の問題の対策だけでは終わらず、同じような問題が他にあるのではないかというような観点から徹底的に類似不適合が起こることはないかの確認を求められました。
具体的な例で説明しますと、例えば溶接個所の1つで溶け込み不足の不適合があったします。通常の品質問題でも同種問題の有無を検討しますが、ここでは、そのやり方が非常に深く、また徹底しているところに特徴があります。
例えば、50か所の溶接線があれば、すべてをリストアップし、
・過去に不適合はないか?
・もしあればどんな対策を取ったか?
・溶接条件はいいか?
・作業手順書に細かく規定しているか?
・検査(含む非破壊検査)で欠陥を見つけられるようになっているか?
・検出能力はいいのか?
など50か所の溶接線を一つひとつ当たっていき、更に要すれば、現場で、現物で、実態を確認するなど徹底して行うことでした。
現場、現物、現実の三現主義を貫くやり方です。
このような見直しの活動を“総点検”と言っていました。
液体ロケットエンジンは、特殊工程の塊のようなところがあります。熱処理、溶接、表面処理、非破壊検査(X線、超音波探傷、浸透探傷などの検査)などの技術が数多く使われます。単純な機械加工で発生する問題とは異なり、複雑なメカニズムで発生する不適合には、たくさんの要因が絡みあい、その問題の解決だけでは安心できないというところがあるのだと考えられます。
航空機もロケットも同じですが、一旦地上を離れ、万一部品が壊れると、人命に関わる事故が起きてしまったり、非常に高価な衛星打ち上げのミッション失敗ということにもなりかねません。そのような製品としての背景もあり、不適合を発生する可能性を徹底的につぶしていくということで総点検がなされていたわけです。その結果を客先に報告して一旦対策は受理され、更に、次ロットの生産で確認して、実証することができた時点で完了するものです。
実は、よく大型連休前にこのような問題が発生し、連休返上で見直しをしたものです。家族旅行の計画が吹っ飛んでしまったことが何度かありましたが、今では懐かしい思い出になっています。
追伸
航空宇宙工業会の規格の中に SJAC91356「根本原因分析及び問題解決( 9S 方法論)」というのがあります。品質問題が発生した時の原因究明と対策の取り方に関する標準的な手順が解説されています。体系的に書かれており参考になるかと思います。
文責 山本 晴久
「続き(第11回)を読む」
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