ヒューマンファクターズ ヒューマンエラー防止へのアプローチ 第4回 “最近の動向:国内 :コンプライアンス”

今回は、2016版で追加された“倫理的行動”の概念を解説し、ヒューマンファクターズの観点で“コンプライアンス”を含めた国内の取組み事例を紹介します。
・技術者倫理とコンプライアンス
2016版で、7.3認識に、h)倫理的行動の重要性 が追加されました。
倫理とコンプライアンスは近い概念ですが、焦点となる対象や範囲に違いがあります。“コンプライアンス”は、主に法律や規則の遵守を指します。最低限守るべき基準であり、法令違反を防ぐために必要不可欠な活動です。
一方で“技術者倫理”は、技術者が「何が正しいか」「どう行動すべきか」という道徳的判断に基づいて行動する指標を指します。
(今回は“(技術者の)倫理的行動”を“技術者倫理“としました。)
“企業倫理”・“技術者倫理”は、1986年に発生したチャレンジャー事故の調査報告書で、組織的な要因として“技術者倫理”が明記されたことから、日本国内でも使われるようになりました。
更に、2003年にはコロンビア号の空中分解・帰還失敗事故が発生し、NASAは危機管理・リスク評価の見直しを行いました。*4
・広義なヒューマンエラー
前回解説した“ヒューマンエラー”は、“人間の判断や行為(作業)が、(結果的に)意志に反して目的を達成する妨げになってしまうようなこと”と定義されています。*3
一方、意識的に(意図的に)その行為を選択・判断している場合は、ヒューマンエラーとは区別して、「違反」と呼んでいます。
倫理・コンプライアンスを考える際は、“意図的な行動”を含めた“広義なヒューマンエラー”を取り扱う必要があります。

・国内航空宇宙業界の事例
JAQG/航空宇宙工業会(SJAC)は、2010年代に発覚した国内企業による不祥事の再発防止策を、IAQGメンバー(機体・エンジンのプライムメーカ)及びステークホルダー(FAA、航空局、防衛省、JAXA、等)へのコミットメントとして、ガイダンス文書を作成しました。不祥事の事例も紹介されています。*3
コンプライアンス:
品質に関連して、法令・規制に加えて、社内規制・マニュアル(手順)を遵守すること(記録のねつ造及び改ざんなどの防止を含む)。企業倫理及び社会的規範を遵守することも含み得る。
注記 QMSのほか、図面・スペック等の製品品質に関わるものには、“適合”(conformity)という用語が使用されている。

不正発生のメカニズム:
「不祥事」は,組織内の「不正」により起こる。
「不正」は「動機・圧力」「機会」「正当化」の3つが揃うと発生すると言われている。

・国内の他業界の動向
昨年は、交通系の業界の不祥事が話題になりました。自動車・船舶エンジン・鉄道等々です。
国土交通省から発表された“型式指定申請における不正行為”関する自動車メーカからの調査報告“を受け、自動車メーカ各社は、HPで再発防止報告書を公開しました。*5
あるメーカから報告された原因とその対策は、SJACがまとめた報告書に記載がある“不正のトライアングル”の考え方と同じでした。”業界倫理“のほころびが、日本国内に蔓延しているのかと愕然としました。
安全の世界では、10年過ぎると再発すると言われます。NASAも同じでした。
変化点(3H:初めて、変更、久しぶり)の観点で、自らの職場を眺めてはいかがでしょうか。
当社で開催しているセミナーでは、コンプライアンス教育の進め方、航空宇宙業界・企業の不祥事事例、取組み事例を紹介しています。
次回は最終回、“最近の動向:民間機 :ヒューマンファクターズ”を紹介します。
(参考文献)
*1 当社販売:「JIS-Q-9100:2016航空・宇宙・防衛品質マネジメントシステムの解説」(7.3、8.1.3、8.5.1、10.2)
当社販売:「JIS-Q-9100航空宇宙QMS実務ガイドブック」 第2部 第5章、第9章
当社販売:「航空機 品質保証実践ハンドブック」 第2章 第15節
*2 JAXA JERG-0-018A:ヒューマンファクタ分析ハンドブック
*3 SJAC 9068A:QMS-航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項-強固なQMS構築のためのJIS Q 9100補足事項
航空,宇宙及び防衛分野の組織におけるガイダンス文書(その1)-コンプライアンス教育
航空,宇宙及び防衛分野の組織におけるガイダンス文書(その7)-不祥事防止の取組み-(過去事例に学ぶ)
*4 失敗知識データベース :スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発
失敗知識データベース :スペースシャトル・コロンビア号の帰還失敗
*5 型式指定申請における不正行為の有無等に関する自動車メーカー等の調査報告の結果等について:国土交通省2024.6.3発表
(当社開催セミナー)
製品安全・模倣品の防止及びコンプライアンス – 2025年6月9日(月)開催
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以上
文責:大脇 聡