あるQAマンの体験記 第9回 製造工程変更管理の徹底を目指して!
航空機の製造においては、通常は初品製品検査(FAI)が行われます。そこでは、物を作るための設備、作業/検査手順書、治具/工具、副資材、更に作業者などいわゆる4Mが準備され、手順書通りの作業をして、技術要求に合致した製品ができることが検証されます。この時の製造形態を製造のベースラインなどと呼び、以降の生産ではこの工程を凍結し、原則変えないことで品質を担保します。
これは一種の航空機産業独特の規律になっています。極めて高い安全性が求められる航空機において、常に安定して同じ品質の部品を生産するために課された制約であり、工程を変更する場合は、お客様の承認を必要とするというものです。
例えば、同じスペックだからといって機械を無断で入れ替えたり、同一の機械でも設置場所を数メートル動かすだけでも機械そのものにも影響がありうるので、工程変更に該当するとされます。機械、治具、工具等について、同等ではなく同一の条件下で使用することが求められます。
また、このような工程凍結を遵守するためには、自社工程のみならず、サプライヤの工程も凍結します。ものつくりに関わる全ての工程が対象になる訳です。
工程変更は原則しないが、やってはならないということではありません。工程変更しようとする際には、変更前と変更後の内容を明確にし、且つ変更したことで品質に影響が出ないことを自ら検証し、その妥当性があること。更にその結果をもって客先に変更申請し承認を受けるというルールになっているということなのです。
客先の要求で軽微な変更は、承認対象にしないという場合には、軽微な事例が規程に列記されたりするのですが、ここでよく問題になるのは、どうしても閾値が都合の良い方(申請しなくてもよい方)に判断されてしまうということでした。
そこで、筆者のいた工場では、製造工程変更審議会という体制で変更管理を行う業務規程を制定し、自ら事務局を務めるとともに、変更は誤記訂正のようなものを除き、すべて申請してもらうようにしました。
その結果、変更申請件数が一気に増え、処理に苦労をしましたが、工程の変更が品質に影響するといういう意識を持ってもらうには、大きな効果があったと思います。
よく「変更にトラブルあり」、「Side Effectに注意せよ」とも言われます。筆者が経験した事例では、“研削作業の効率を上げようとして、研磨の切込みを少しだけ深くした。その結果、寸法も表面粗さも規格に入って問題ないとして変更した。ところが、非破壊検査で表面の微細なクラックが見つかった”など、Side Effectが発生していることを見落とすというようなこともありました。
また、サプライヤさんを訪問し話をする中で、“変更管理で顧客企業に申請をするのですが、承認に時間がかかって困っています”ということをよく聞きます。確かに変更申請を処理するのに時間がかかることも事実です。しかし、ここで述べたような背景もあり、できるだけ時間的余裕をもって申請するようにしていただきたいと思います。
工程凍結というのは、改善の意欲を削ぐもので、技術を高めながら効率を上げ、且つ品質も上げるということをある意味で抑制するもので、後ろ向きの管理のようにも取れますが、良かれと思い変更し、失敗を繰り返した先人たちの知恵が生み出した管理手法の一つなのかもしれません。
航空エンジンの部品は、工程凍結の要求が厳しく、作業手順書の表紙には、“To be Frozen”と大きなスタンプを押して徹底していたことが今更ながら思い出されます。
文責 山本 晴久
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