【第4回】宇宙産業に期待される品質マネジメント 新規に参入される企業の方々へ

 今回で最終回です。現役の時(JIS-Q-9100が制定される前(1990年代))に、プロマネ・上司から何度も言われ、自らも実践してきた“心構え”、”ビジネスマナー“を紹介します。
(JIS-Q-9100の該当項目を記載してみました。) 

・”計画書“、”スケジュール“で関係者とベクトル合わせ
 JIS-Q-9100構築支援で様々な企業様を訪問しますが、最初に質問する事項があります。
 “QMSを構築したい製品のプロジェクトプランはありますか?“ (事業計画、開発計画等)
 ”開発大日程を見せてください“、”マスタースケジュールはありますか?“ (開発スケジュール等)

と問いかけると、熱心に口頭で説明していただけるのですが、いつまでたっても文書の提示がないケースがあるのです。用語にこだわらなくていいです。“計画・スケジュール“を示した文書”を見せてください、“作成してください” という意図です。(6.1.2、8.1、8.3.2)

 社内組織メンバーへの周知の手段として、”計画書“・”スケジュール“は極めて有用です。顧客からも契約で実施計画書・実施スケジュールの提出を要求されるケースが多いでしょう。(7.4、8.2) 
 当然、認証取得の支援者(認証機関も)にとって、事前に支援(審査)ポイントを検討するうえでも確認したい文書です。ご理解ください。
P(Plan)は、PDCAサイクルの起点です。

・実施項目のブレイクダウンで担当・期限を周知
 “計画書”・“スケジュール”を作成するうえで重要なことは、実施項目をブレイクダウン(詳細化)し、担当・期限・アウトプットを明確にすることです。期限の決定には、ゴールから逆算して、実施項目の開始時期と完了時期を考慮することです。更に、リスクの観点ではクリティカルパスとマイルストーンを明確にすることも必要です。(8.3.2)
  ゴールの例:納期、打上げ日、衛星分離、初期運用フェーズ移行、市場投入、等、
  マイルストーンの例:製造着手、開発完了、射場出荷、等
PDCAサイクルでは、P(Plan)からD(Do)に移行するための勘所です。

・記録は、振り返りの源泉
 会議での決定事項、電話・Web会議での確認事項等は、記録に残してください。ホワイトボードのスキャンデータでもいいです。宇宙業界では、議事録・摘録・打合せメモ等と呼ばれます。様式は顧客・組織のルールに従うとして、文書で記録を残すことを心がけましょう。文書番号もつけてください。(7.5)

 設計変更・異常/不適合発生時には社内関係者で議論し、顧客を交えての調整の機会もあるでしょう。確認会・対策会議・審査会・レビュー等での質疑・決定事項・要処置事項(残作業)を残すことは、次工程での戻り作業の防止にもなります。宇宙業界では、“エビデンスを示せ。”とよく言われます。根拠、証拠のことです。(4.4.2、7.5、8.3.6、8.7)
PDCAサイクルでは、C(Check)の源泉でもあります。

・変更管理で改善に向けたアクション
 PDCAサイクルを回す原動力は、メンバ-各自の“計画通り進めたい、ゴールを目指そう。”という熱意・信念ではないでしょうか。しかしながら、思惑通り進まないことが日常です。直面した事実を把握し記録し、関係者で時には顧客を交えて、議論し調査し検討し、課題を抽出し、アクションプランを合意して新たなゴールを目指すのです。(8.7、10)
 これらの経験(成功も失敗も)の記録を、組織・メンバーが“学んだ知恵(Lessons Learned)”として残し、次のプロジェクトに生かしてください。(7.1.6)
 PCDAサイクルのA(Action)であり、次のP(Plan)に引き継がれます。

・まとめ
 JIS-Q-9100はグローバルな業界規格ですから、業界・組織の日常業務を普遍化し、標準化した用語・表現を用いた文体になっています。
 関係者で議論して規格の用語・表現を組織内の日常業務の言葉に置き換えてください。該当するものが見つからない場合は、“愚直にまねる”ことも必要です。自らの組織・メンバーが理解できる、納得した“しくみ”に仕上げる努力は惜しまないでください。
 スタートアップ企業の方々が認証取得を目指すのは、ビジネス機会を得るのための手段と判断されたからと思います。認証取得が、会社組織としてのゴールではないと思います。業界規格の意図・思い(願い?)は、組織内で共有してください、そして自らのゴールを目指してください。

以上で、「宇宙産業で期待される品質マネジメント -継続したサービスの提供にむけて-」についての投稿を終わります。

(参考文献)
「JIS-Q-9100航空宇宙QMS実務ガイドブック」 第2部 第1章、第7章:当社にて販売中

(リスク・ベース・アプローチの成功事例)
JAXA資料: 小型月着陸実証機(SLIM)、超小型月面探査ローバ(LEV-1)、及び 変形型月面ロボット(LEV-2)の月面着陸結果について、2024.1.26

文責:大脇 聡

出典画像:JAXA:プレリリース2024.1.25変形型月面ロボットによる小型月着陸実証機(SLIM)の撮影およびデータ送信に成功