【#5】宇宙機(ロケット)における“サービスの品質”
第1回で説明しましたが、H-IIAロケット「打上げ輸送サービス」事業はJIS-Q-9100を前提とし、従来からの宇宙機独特な項目を織り込んだQMSを構築しています。
今回は、機体を射場搬入後の射場整備作業から打上げ、および飛行後評価からの反映活動における留意点を示します。
(1)射場安全、飛行安全(4.4、8.1.3箇条)
H-IIAロケットは、JAXA施設設備である種子島宇宙センターを使用して射場整備作業を行い打上げることから、国及びJAXAの規則(特に、安全)に従うことになります。
(2)宇宙活動法(4.4箇条)
2018年度に“人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律”(宇宙活動法)が施行され、人工衛星の宇宙空間への放出を行うロケットの打上げに国の許可が必要になりました。
第4回で説明した実機段階のマイルストーン審査の全体像に、申請のタイミングを示します。なお、申請はシステム安全活動で設定された、安全審査が完了していることが前提です。
H-IIAロケット“打上げ輸送サービス”における宇宙活動法への対応のQMS視点の留意点を、以下に示します。
(3)サービスの品質(5.1.2箇条d):顧客重視)
打上げ輸送サービスの目標として、以下の3項目をHPで明記し、実績を公開しています。
・お客様視点にたった「使いやすさ」 :「きめ細かなサービスを提供」
・「ご指定の場所に、確実に届ける」信頼性の高い打上げ :「軌道投入精度」
・「決められた日に届ける」確実な打上げ :「定刻打上げ率」
(4) 飛行後評価とフィードバック(10箇条:改善)
第2回で、繰り返し生産・運用の留意点を説明しました。年間5機レベルの打上げを前提のH-IIAロケットでは、(製造・射場整備作業を含む)飛行後評価からの次号機への反映が可能な期間は1-2か月程度になります。よって、9100の前提である継続した“PDCAサイクル”が重要です。
民間航空機と類似の法制度のもとで、我が国で最初に認可されたH-IIA「ロケット打上げ輸送サービス」事業への移行は、QMS視点で振り返ると9100のスキームがあってからこそ円滑に移行できたと思います。
次世代のH3ロケットでは、民間航空機開発からの成果・反省点もしっかり反映していただき、3桁打上げを目指して継続的改善に取り組んでいただきたいです。
(打上げ実績:H-I:9機、H-II:7機、H-IIA:50機(予定))
以上で、「H-IIAロケット打上げ輸送サービスにおける“3つの品質“」についての投稿を終わります。
注:
・JMR-001:システム安全標準
・JAXA規定第27-59号:人工衛星等打上げ基準
・人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律
・内閣府:人工衛星等の打上げにかかる許可に関するガイドライン
・「H-IIA標準型の民間移管に係るプライム会社候補の決定について」:NASDAプレスリリース、2002.11.20
・「H-IIAロケット信頼性向上への取り組み」:奈良登貴雄、信頼性学会誌,Vol.30.No.5,2008
・MHI HP「MHI打上げ輸送サービス」:https://www.mhi.com/jp/products/space/launch_service.html
以上
文責:大脇 聡