【#2】宇宙機(ロケット)のライフサイクル上の特長

第2回目は、“宇宙機(ロケット)のライフサイクル上の特長”についてです。

宇宙機は、自動車のような短期間での大量な量産製品ではなく、かつ、航空機に比べても、生産量が少ないことが、大きな特徴です。H-IIAロケットでは、多くても年間6機程度の打上げ機体の生産レートです。
重大な不適合(6号機打ち上げ失敗等)が発生した場合には、設計変更と膨大な検証が必要になるため、RTF(打上げ再開)には長い期間を要しました。つまりは、実機生産と再開発・設計変更による試作品の製造・検証とを並行して実施することになります。これは、海外の民間ロケットと比べ、“失敗が許されない風潮”である日本の基幹ロケットに課せられた宿命です。
「打上げ輸送サービス」事業を継続しているH-IIAロケットのライフサイクル上の特徴をQMS視点で整理すると以下になります。

 ・開発と実機運用が並行して進行
 ・量産というよりも、繰り返し生産・運用
 ・品質証拠方式

1) 開発と実機運用が並行して進行
ロケットの開発から試験機・実機運用機打上げまでのスケジュールを、H-IIAロケットでの経験を参考に整理すると下図のようになります。

大規模なシステムの開発を着実に実行し推進するための手法としては、プロジェクト・マネジメント/システム・エンジニアリングが必須です、そして、開発時のリスク管理が重要となります。

2) 量産というよりも、繰り返し生産・運用
H-IIAロケットは、打上げ時期から逆算して、個々の仕様で機体を製造し打上げるのが基本パターンです。打上げ輸送サービス段階の受注から納期までのスケジュールのイメージは以下になります。

(留意点)
 →顧客の要求に従い、個々にミッション解析を実施し機体仕様を確定する。
(受注型製品)
 →人、設備、パートナ、工場エリア等を、個々に計画せざるを得ない。
(4Mの固定がむつかしいケースが多い)
 →要員(サプライヤ、製造・運用関係者)の力量管理
 →コンフィギュレーション管理、特に変更管理 が重要

自動車では一般的で、航空機開発でも採用されている手法に“コンカレント・エンジニアリング”がありますが、宇宙機の場合、実機運用段階になっても“打上げ結果から次号機への反映事項”の確認が重要です。

3) 品質証拠方式
打上げ後の異常・失敗・事故対応では、打上げまでの記録と飛行中データがすべてであり、事故機体の回収は、航空機に比べてもより困難になります。更に、2018年度に“宇宙活動法”が施行され、人工衛星の宇宙空間への放出を行うロケットの打上げに国の許可が必要になったことに伴い、重大な事故(第三者への危害、等)が発生した場合には、航空機事故と同様に“事故調査”が実施されることが予想されます。
これに伴い、事故調査に証拠として必要と判断されうる文書、品質記録等の維持・保持(管理)が、より重要になりました。

以上のように、宇宙機ではその特徴から航空機とは違ったQMS視点の留意点があります。
次回は、“3つの品質“のうちの“設計の品質”について紹介します。

(参考文献)
・「H-IIAロケット信頼性向上への取り組み」:奈良登貴雄、信頼性学会誌,Vol.30.No.5,2008
・「基幹ロケットH3の開発状況と今後の展望」:奈良登貴雄他、三菱重工技報Vol.58.No.4,2021


以上
文責:大脇 聡