第3回_航空機の品質保証(自動車との比較)
第3回は、自動車規格(IATF16949)からみた、航空宇宙防衛分野の品質マネジメントシステム要求AS/EN/JIS Q 9100(以下、9100)規格に付加された特徴について述べます。
「製品の使われ方」からみた特徴に示したように、航空機の飛行中の故障発生は即人命に影響することから、安全性/信頼性が第1に挙げられます。
自動車、航空機とも安全性が最優先されていますが、9100箇条8.1.3製品安全 において、「製品サイクル全体で製品安全を保証するために必要なプロセスを計画し、実施し、管理する」ことを要求しています。ハザードの評価や関連するリスクマネジメントや安全クリティカルアイテムとして指定されたものの管理、更には製品安全に影響を与える発生事象の分析や報告、関係者への伝達や訓練が要求され、これらは設計部門や購買・製造部門での活動が必要です。
次に、形態管理です。自動車には要求されていないものです。9100箇条8.1.2形態管理 では、「製品ライフサイクルを通じて、物理的及び機能的属性及び管理を確実にするため適切に形態管理のプロセスを計画し、実施し、管理することと、その詳細として要求されている、識別された変更を含む、製品識別及び要求事項へのトレーサビリティの実施とは、形態管理の4つの要素(①形態の識別、➁変更の管理、➂形態監査/確認、④形態状況の報告)の一連のプロセスを実施することです。①~④の詳細は、割愛します。また、製品形態が、形態要求を示す製造図面、製造に展開する作業指示書、検査結果の記録によって整合性のあることを示すことも要求されています。
3番目は、運用リスク管理です。自動車、航空機共にある要求ですが、自動車では具体的な方法までを記述しているのに対して、航空機では運用プロセス(箇条8)に限定した、箇条8.1.1運用リスクマネジメント において、リスク基準(定量的に発生確立と結果の重大性[影響の程度])を設定し、リスクの特定/評価と基準を超えるリスクの軽減策の実施と、軽減処置後の残留リスクの受容について規定しています。予防処置にかわるものとして、計画機能の充実化を求めたものです。
4番目は、識別とトレーサビリティです。市場に出た製品に問題が発生する可能性がある場合の遡及処置ができる管理の要求は、自動車、航空機とも同じですが、9100箇条8.5.2識別及びトレーサビリティ において、識別では、実際の形態と要求形態の違いが識別できるように、製品/サービスの形態の識別を維持することが要求されています。また、検査結果としての合格/不合格の識別、航空機では一般的な検査スタンプ等の合格表示媒体の使用や管理もここで要求しています。
トレーサビリティでは、航空機では必須の要求事項として管理する必要がある、部品番号、一貫番号、材料ロット、製造ロットなどの一意の識別と、製品と記録の関連が追跡できることです。
5番目は、サプライチェーンの管理です。これには、受入検査、サプライヤ(外部提供者という)の管理の方法、外部提供者への要求があります。
自動車、航空機共に受入検査の要求はありますが、航空機では模倣品を撥ね出すための検査/試験なども要求しています。9100箇条8.4.2管理の方法及び程度 において、外部から提供されるプロセス、製品、サービスの検証活動(検査/試験)は、特定されたリスクに従って実施し、模倣品のリスクを含め不適合のリスクが高い時は、検査又は定期的な試験を実施するように要求されています。
また、同じ箇条で外部提供者の管理の方法として、航空機では外部提供者に検証活動を委譲する場合の要求事項があります。その場合は、適用範囲や要求事項を定め、委譲事項の登録を維持し、定期的に監視する必要があります。更に、ミルシートなどの外部提供者の試験報告書を製品の検証に利用する場合、試験報告書のデータを評価するプロセスを実施することも要求しています。
外部提供者への要求では、自動車、航空機共に重要特性などの伝達を確実にしています。9100箇条8.4.3外部提供者に対する情報 において、外部提供者に要求事項には、図面等の技術データ、設計審査/妥当性確認への関与、特別要求事項/クリティカルアイテム/キー特性、試験/検査/検証(FAIを含む)、その他必要事項などがあり、注文書に基本取引契約書、品質保証仕様書、個別仕様書などを呼び出すのが一般的です。
サプライチェーンの管理に関連する事項として6番目に模倣品の防止を挙げます。9100 2016版で追加された要求で、自動車にはない要求です。模倣品とは、いわゆる偽物であり、他社メータの名前で自社の製品を販売するものです。特に、電子部品などで模倣品が多いと言われますが、材料や部品なども同様です。
9100箇条8.1.4模倣品の防止では、製品に応じて適切に模倣品又は模倣品の疑いのある製品の使用、及びそれらが製品に混入することを防止するプロセスを計画し、実施し、管理することを要求しています。人々への認識や防止訓練、正規品の購入のための管理、正規品を保証する証明書の要求、検出する検査/試験方法、外部情報源の模倣品報告の監視、模倣品/疑義品の隔離/報告などが、考慮すべき事項とされていますので、購買時の購入方法や受入検査の方法などが、重要となります。
続きは、第4回で述べます。
文責 古郡 秀一
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