【第1回】宇宙産業で期待される品質マネジメント JAXA要求の変遷と業界規格(JISQ9100)

今回より4回にわたり、「宇宙産業に期待される品質マネジメント」をテーマに、「JIS-Q-9100:品質マネジメントシステム-航空・宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」の観点から見た宇宙産業(特に、無人機、小型衛星等)への参入のポイントについて紹介します。

第1回は、JAXA要求の変遷と業界規格(JISQ9100)についてです。

・航空宇宙産業における品質保証の変遷    (出典:航空宇宙QMS実務ガイドブック
 戦後、米軍機のライセンス国産の開始により、国内の機体メーカは“品質プログラム”(MIL-Q-9858)を学びました。防衛省(当時、防衛庁)はC&LPSY-xxx(後にDSP-Z-9001)を制定し契約要求とし、機体・装備品メーカは、契約要求として”品質プログラム”を構築し実践してきました。

 その後、MILスペックの廃止に伴いISO9001が制定されたことにより、航空宇宙業界規格である“品質マネジメントシステム”(JIS-Q-9100)が制定されました。国内企業からの要請もあり、防衛省はDSP-Z-9008を制定し、調達品のレベル(安全性が高い航空・宇宙用途等の調達品はJIS-Q-9100適用)で区分される契約要求になりました。

・旧NASDA、JAXA要求の変遷
 NASAはMIL規格をベースに管理プログラム要求(NHB5300.4(1B))を設定していました。Nロケットの導入とともにNASDAが設立され、NASDAはNASDA-SPC-xxxを制定し契約要求とし、国内企業は、品質プログラム計画書の承認を得て“品質プログラム”を構築し実践してきました。

 NASDA・ISAS・NALが統合したJAXAは、ISO9001の用語・構成を考慮したJMR-005を設定し、その後、H-IIAロケット民間移管をきっかけにJIS-Q-9100適用の標準(JMR-013)を制定し、防衛省と類似の“品質マネジメントシステム”要求となりました。当然、サプライヤへJAXA要求のフローダウンが必要になります。なお、JMR-005とJMR-013の選択は、契約前に契約相手側から提案することになります。

なお、旧ISASの科学衛星では低コストでの開発が必須であることからも、開発担当による直接検査が基本であり品質プログラム計画書は必須としていませんでした。JAXAとなった現在も、JMR-005を要求するがテーラリングを許容する方針と思います。国内の独自技術をもつ中小企業を活用したからこそ科学衛星の偉業がなされてきたという見方もあると思います。(ここが、国内宇宙産業のポイントです)

・基幹ロケットの民間移管
 H-IIAロケットは、実機フェーズにはJAXAからの技術移転により打上げ業務の民間移管が決まっていました。国内の航空(宇宙)業界が9100のスキームへ移行した時期であったこともありプライムメーカとして、宇宙機でも製品およびサービスの品質マネジメント要求であるJIS-Q-9100を前提とし、旧支給品メーカを含めたすべてのパートナへ要求(JIS-Q-9100を推奨)することを決定しました。コラム2024.5.14

同様に、イプシロンロケットも民間事業者であるIHIエアロスペースに移管されることが決まり、現在開発中のイプシロンSの2号機からの打上げ輸送サービス事業本格化に向けて準備中です。
よって、基幹ロケット関連企業の多くは、JIS-Q-9100ベース(認証取得なくても)のQMSが前提です。

・スタートアップ企業
 近年、スタートアップ企業の躍進が目覚ましいです。ロケットではインターステラテクノロジズ、スペースワン他、小型衛星ではキャノン電子、QPS研究所、アストロスケール他、無人機ではiSpace、PDエアロスペース、Space Walker他、が着実に実績を積んでいます。

 これら企業は、政府機関・JAXAとの契約では、JAXA要求等を考慮したQMSを構築する努力をされていると思われますが、ビジネスの主体は民間サービス事業であるので、HPでも積極的に“品質方針”を掲示していません。必ずしも、JIS-Q-9100認証取得を企業方針とはしていないのが実態です。また、自動車等の他業界経験者が活躍されていると聞いています。

現在は打上げ等の実績を積む段階のため、実機品に向けた試作品開発が最優先であろうと考えられます。
継続したサービスの提供に向けた取り組みは、今後の課題と思われます。

・継続した宇宙ビジネスに向けて
 基幹ロケットで輸送サービス事業への移行を経験したものとして、新規に参入された/されるスタートアップ企業の方々、各社のサプライチェーンを担う企業の方々にとって、継続してお客様の期待に応えるためには、QMSが有効であり、有用なツールを提供するものであることをお伝えしたいと思います。

第2回:“継続したサービスの提供”とは
第3回:無人機と有人システム、“QMS上の留意点”
第4回:新規に参入される企業の方々へ

(参考文献)
「JIS-Q-9100航空宇宙QMS実務ガイドブック」:当社にて販売中
「IHIエアロスペース 衛星打上げビジネスへ参入! 打上げサービス事業とイプシロンSロケット開発」:IHI技報Vol.61 No.3(2021)

MIL-Q-9858A:QUALITY PROGRAM REQUIREMENTS
DSP-Z-9008:品質管理等共通仕様書
NHB5300.4(1B):QUALITY PROGRAM PROVISIONS FOR AERONAUTICAL AND SPACE SYSTEM CONTRACTORS
JMR-005:品質保証プログラム標準
JMR-013:品質保証プログラム標準(基本要求JIS-Q-9100)

国内の注目「民間宇宙開発」ベンチャー企業一覧【厳選20社】/アクシスコンサルティング株式会社

文責:大脇 聡

出典画像:インターステラテクノロジズ株式会社 ロケット発射設備(LAUNCH COMPLEX)