【#4】宇宙機(ロケット)における“製造の品質”

米軍/NASAで体系化された“品質システム要求”、“品質管理要求”、”検査要求“に準拠した日本語版を、防衛省(DSP-Zシリーズ)と同様に、旧NASDAも制定していたので、宇宙機の社内標準類もこれに従って、旧NASDA向けの宇宙機品質保証プログラム計画書を設定していました。9100適用に伴い、防衛省はDSP-Z-9008を制定し9100項目と防衛省固有要求を明確にしました。あらかじめJAXAが9100を適用することを想定し、防衛省と同様の社内標準体系を設定することにより、大きな混乱は生じませんでした。

一方、パートナー(サプライヤ)への要求も、同様にMSJ4000の特約条項の整備を図り、パートナーとの品質改善活動でJIS-Q-9100の啓蒙活動、工程FMEA・品質指標の共有等を推進しました。
今回は、実機製造・運用(8箇条)における留意点を以下に示します。

(1)工程の凍結、変更管理
第3回で説明したロケット開発から実機(試験機)打上げまでのスケジュールを用いて、変更管理の起点(ベースライン)の考え方を示します。PQRにて設計ベースラインとともに製造ベースラインも承認、製造工程を凍結し、以降は変更管理を徹底します。

なお、第1回に紹介した“工程FMEA”は、製造工程(8.5.1箇条)の検証活動*として実施し、製造ベースライン・ドキュメントに反映して工程凍結としました。特に、特殊工程では、重要品質特性/重要加工パラメータの識別に注力しました。
(*試験機製造当時は9100適用前。旧NASDAの信頼性管理/品質保証プログラムに従って実施)

(2)サプライチェーンの管理(パートナ管理)
 「打上げ輸送サービス」移行に伴い、WIN-WINの関係(サプライヤは目的を共有するパートナー)を意識するために、“サプライヤ”は、“パートナー”に呼び名を統一し、“パートナー管理”にしました。

パートナー管理における留意点を、以下に示します。
・打上げ期間から逆算されるスケジュールに対応した発注・納期
  →打上げ予定の共有、一括購入、(基本仕様は)先行着手・手配も考慮

・打上げ達成に向けたサポート
  →予備品・バックアップ品(後続号機引き当て品)の準備    
  →不適合・仕様変更に迅速な対応、水平展開   
  →技術支援(データ評価)、後方支援

(3)不適合管理
9100適用前は、宇宙機だけでなく航空機・防衛も“不具合”を用いていました。宇宙機では、信頼性管理の要求(異常/故障も不具合と識別)に準じた“不具合”で運用でした。9100適用にあたり、宇宙機向けの所標準で、“不適合”の定義を、“異常/故障も不適合と識別”を明記することにしました。JAXA文書は“不具合”のままであったため、特に射場整備作業では、MHI文書は“不適合”に統一、JAXA規定による帳票類は“不具合”の併用を許容することになりました。

なお、“異常”の概念は、AS13100(民航エンジンのQMS要求)から呼び出されるRM13010(HF)で記載のある“インシデント報告”の概念に近いものです。

(4)マイルストーン審査(実機審査)
実機段階のマイルストーン審査の全体像を以下に示します。なお、型式認定、打上げ許可申請は、次回の“サービスの品質”で説明します。

注: PQR:開発完了審査   MAR:ミッション解析審査
         (実機審査)PSR:工場/パートナーからの出荷前審査  FRR:打上げ移行前審査

航空機と異なり、個々の打上げ機体のライフサイクルは短期間という特徴があります。日々の変更情報に対応できる“変更管理”の徹底が、「打上げ輸送サービス」事業というライフサイクルを維持する源泉であることを、H-IIAロケットの四半世紀の運用実績が物語っていると思います。

次回は、“サービスの品質”について紹介します

注:
・DSP-Z-9008:品質管理等共通仕様書
・AS13100:AESQ Quality Management System Requirements for Aero Engine Design and Production Organizations
・RM13010:Human Factors
・「H-IIAロケット信頼性向上への取り組み」:奈良登貴雄、信頼性学会誌,Vol.30.No.5,2008

以上
文責:大脇 聡