【#1】H-IIAロケット打上げ輸送サービスにおける“3つの品質”

2024年1月12日、H-IIAロケット48号機が打上げられました。2005年の7号機から51回連続の打上げ成功になりました。試験機1号機の打上げ成功から、四半世紀が過ぎた現在も現役です。

今回より5回にわたり、「H-IIAロケット打上げ輸送サービスにおける品質」をテーマに、「JIS-Q-9100:品質マネジメントシステム-航空・宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」の観点から見た宇宙機(ロケット)の品質保証の特徴について紹介します。

第1回は、“H-IIAロケット「打上げ輸送サービス」における”3つの品質“についてです。

・H-II 8号機失敗、H-IIA試験機1号機~5号機まで連続打上げ成功

 1999年H-II 8号機失敗によりH-IIA開発に注力することが決断され、CFT(ステージ燃焼試験)・GTV(地上試験機)により開発完了が認められ、2001年8月29日試験機1号機が打上げられました。

 H-II 8号機は、射場整備作業において発見・発生した製造・整備作業に起因した不具合(ヒューマンエラー等)への対応により、打上げ日が4回延期され、更に打上げは1段エンジン不具合により失敗に終わりました。

品証部には、品質マネジメントシステム(当時は、旧NASDAの品質保証プログラム標準)の要求事項に照らし合わせたヒューマンエラー視点の背後要因の調査と分析が求められ、H-IIAロケットの製造工程へ速やかに対策を反映して“1号機打ち上げ必達”を目指すことになりました。

 “製造品質”の早期安定化のための手法として、自動車業界で実施されている“工程FMEA”に取り組み、部品加工・組立・機能試験、更には射場整備作業まで、徹底的に実施しました。工程FMEAから重要品質特性・加工パラメータを選定し、号機毎のトレンド評価(ばらつき管理)を開始、製造品質の指標として現在まで継続されています。

・6号機失敗・7号機RTF(打上げ再開)~製造プライム化(~12号機)

 2003年11月29日6号機は固体ロケット(JAXA開発品)の不具合により失敗しました。原因が開発・設計起因であったことから、プライムメーカとして設計FMEAの詳細化・見直し等の信頼性(“設計品質”)向上活動を、支給品メーカを巻き込んで取り組みました。

・民間移管「打上げ輸送サービス」へ(13号機~)

 当初からH-IIAロケットは、実機フェーズにはJAXAからの技術移転により打上げ業務の民間移管が決まっていました。国内の航空(宇宙)業界が9100のスキームへ移行した時期であったこともありプライムメーカとして、宇宙機でも製品およびサービスの品質マネジメント要求であるJIS-Q-9100を前提とし、旧支給品メーカを含めたすべてのパートナへ要求(MSJ4000:JIS-Q-9100を推奨)することを決定し、1社1社粘り強くパートナ審査を行いました。

 その後、防衛省と同様に、JAXAも JIS-Q-9100適用の標準を制定したのは、H-IIAロケットの連続打上げ成功の実績が評価されたことも寄与していると思います。

 打上げ輸送サービス事業に移行した現在は、打上げ輸送“サービスの品質“の指標に“定刻打上げ”を設定し、HPでその実績を公開しています。

・そして、H3ロケットへ

2024年度49/50号機の打上げでH-IIAロケットは退役します。そして、H3ロケットも運用号機では“打上げ輸送サービス”に移行することでしょう。

以上のように宇宙機では、その特徴やサービス事業へ深化した経緯を反映した宇宙機独特なQMS要求項目を設定しています。次回以降、私のH-IIAロケットでの経験と連続打上げ成功の実績から整理できた“3つの品質”の視点での留意点について紹介します。

第2回:宇宙機(ロケット)のライフサイクル上の特長
第3回:設計の品質
第4回:製造の品質
第5回:サービスの品質

(参考文献)
・「H-IIA標準型の民間移管に係るプライム会社候補の決定について」:NASDAプレスリリース、2002.11.20
・「H-IIAロケット打上げ再開初号機の成功」:前村孝志他、三菱重工技報,Vol.42.No.5,2005
・「H-IIAロケット信頼性向上への取り組み」:奈良登貴雄、信頼性学会誌,Vol.30.No.5,2008
・「H-IIAによる商用衛星打上げ輸送サービス」:浅田正一郎、精密学会誌Vol75.No.4,2009
・「日本の基幹ロケットへの貢献(1)-H-IIA打上げ連続成功、H-IIB打上げ輸送サービス化―」:二村幸喜他、三菱重工技報、Vol.51.No.1,2014
・「基幹ロケットH3の開発状況と今後の展望」:奈良登貴雄他、三菱重工技報Vol.58.No.4,2021
・MHI HP「MHI打上げ輸送サービス」:https://www.mhi.com/jp/products/space/launch_service.html


以上
文責:大脇 聡