第4回_航空機の品質保証(自動車との比較)

第4回は、第3回に続き、自動車規格(IATF16949)からみた、航空宇宙防衛分野の品質マネジメントシステム要求AS/EN/JIS Q 9100(以下、9100)規格に付加されている特徴について述べます。

今回は、製品の生産のやり方(多品種少量、手作り)からみた特徴で、製造工程の検証、変更管理、ヒューマンファクターへの対処、特殊工程 などです。

まず、製造工程の検証(初回製品検査;First Article Inspection、以下FAI)による量産工程の確立です。FAIは、技術要求、設計要求を満たす部品や組立品を製造できることの妥当性確認を目的としています。9100箇条8.5.1.3製造工程の検証 において、量産段階の初回製造からの代表品で検証活動を実施することを要求し、また初回の結果を無効にするような変更(設計変更、製造工程の変更、治工具の変更 など)が生じた時にも繰り返し実施することを要求しています。

このFAIで実施する内容は、トラベラー、製造/検査手順書 などの確認、検査/試験データ/特殊工程承認の確認、材料の確認、不適合文書の確認、設計特性の確認、部品マーキングの確認 などの工程全般の確立を確認することです。また、FAIの記録は、一般的にSJAC 9102C「航空宇宙初回製品検査要求事項」に基づき、成績書(品質記録)としてまとめます。

 次に、変更管理です。9100箇条8.5.6変更の管理 では、「製造に関する変更を、要求事項への継続的な適合を確実にするためレビューし、管理すること、製造の変更を承認する権限を持つ人々を識別する(変更を承認する人々を決める)こと、変更に際しては、レビュー結果、生じた必要な処置 などの変更の影響や変更の承認者の記録を残すこと」を要求しています。

これは、FAIを実施して確立された製造工程を変更する場合は、一般的には顧客の承認を得ること、また顧客の承認が得られるまでは変更しないこと などが、顧客の品質保証仕様書 などで規定されています。このため、変更に先立つ顧客への手続きは、時間/スケジュール的な余裕を持って進めることが重要です。また、変更による品質への影響がないことを十分評価し、その証拠も提出することです。

製造工程の変更は、4Mの変更として捉え、人(Man)は一般的には技能認定(力量)で管理し、設備(Machine)、工程(Method)、材料(Material)の変更は、対象が小さなものでも変更と考えることが必要です。

続いて、ヒューマンファクターです。これは、人の技能への依存度が高いことからくるものです。9100箇条8.5.1製造及びサービス提供の管理、及び10.2.1不適合及び是正処置 で規定されています。箇条8.5.1では、製造/検査工程には人的ミス(ヒューマンエラー)防止のための処置の実施を要求しており、工程の分析や過去の不適合事例 などから人への依存度が高いものに対しては、ダブルチェックやフェールセーフ などの対策を講じることです。

また、箇条10.2.1では、不適合の原因がヒューマンエラーによる場合は、人的要因(ヒューマンファクター)に関する原因を明確にし、対策を取ることを要求しており、ヒューマンエラーが発生した時の原因究明には「なぜなぜ分析」 などの分析手法で真の原因を掴むことと、是正対策は再発防止の観点からシステム的な歯止め策(mSHEL + 4Eなど)を講じることです。

特殊工程は、製品品質が単なる測定では評価できないもので、品質問題が安全性/ミッション達成可否に関わるような問題となるため、特別な管理が要求されています。9100箇条8.5.1.2では、プロセスの品質がそれ以降の監視又は測定で検証することが不可能なプロセスを特殊工程と定義し、プロセスのレビューと承認の基準の設定、承認を維持するための条件の明確化、設備の承認、作業者の適格性認定、プロセス手順の設定、記録の要求事項 などを規定しています。

以上、第3回から2回にわたり、製品の使われ方からみた特徴と、生産のやり方からみた特徴から航空機の特徴的な要求事項について説明しました。

航空機の品質マネジメントシステムは、航空機の特徴から製品安全/飛行安全を大前提とした品質保証の考え方がベースにあり、自動車の要求と比べ厳しくなっている部分でもあります。

なお、自動車の要求は、具体的な進め方(How to)まで規定されているように感じますし、航空機の品質保証の要求にも、自動車の要求(例えば、PPAP*、MSA*、工程FMEA など)が入ってきていますので、今後の規定の改正時には、更にこの動きは加速されることも予想されます。

以上で、「航空機の品質保証(自動車との比較)」についての投稿を終わります。

*PPAP:Production Part Approval Process
*MSA:Measuring System Analysis
*FMEA:Failure Mode and Effects Analysis

文責  古郡 秀一

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