デミングの「深淵なる知識の体系」と品質マネジメント(その2)
今回は(その2)として、JIS Q 9100の要求である「倫理的行動(コンプライアンス)」と人間性の理解について書いてみようと思います。
そのテーマに入る前に、「PDCA」と人間性、人との相性と言ってもいいのかもしれません、について少しお話しします。
JIS Q 9100 「0.3 プロセスアプローチ」の
“ PDCA サイクルを、機会の利用及び望ましくない結果の防止を目指すリスクに基づく考え方に全体的な焦点を当てて用いることで、プロセス及びシステム全体をマネジメントすることができる ”
“ PDCAサイクルは、あらゆるプロセス及び品質マネジメントシステム全体に適用できる ”
を持ち出すまでもなく「PDCA」はQMSにおいて基幹をなす考え方であり重要な手法です。一方、実務の場面ではPDCAの「P:計画」に労力を費やし、その先の肝心な「D:実行」が尻すぼみ、「C:監視。評価」「A:改善」にいたっては後手にまわってしまったという経験が、みなさんも少なからずあるのではないでしょうか。
この現実を人間性という側面から考えてみると・・・
社会心理学者のダニエル・ギルバートが
“本書の主題は「先見の力と限界」であり、心理学、認知神経科学、行動経済学の知見と理論を織りあわせることで、個人的には納得のいく答えが浮かび上がってくる”
と書いている『明日の幸せを科学する』という著作の中で次のように述べています。
“ 前頭葉の特定の場所に損傷を受けると、不安が消えて心が平静になる場合もあるが、計画をたてられなくなる場合もある。(この)「不安」と「計画」を結び付ける概念(は)、どちらも未来について考えることと密接に関係している ”
“ なぜ、脳はあくまでも未来に自己を投影しようとするのだろう。(それは)未来について考えるのが楽しいから、未来を空想するとき、挫折した自分や失敗した自分より、やりとげた自分や成功した自分を思い浮かべる傾向がある。それだけじゃない。未来について考えるのがあまりに心地よいため、われわれは現実にそこへ行きつくより、それについてただ考えるほうを好むことさえある ”
“ いいことが起こる確率を高く見積もりがちで、非現実的なほど未来を楽観してしまう ”
“ そもそもなぜ未来をコントロールしたいのか。(それは)人にとってコントロールすることが心地よいから、だ。コントロールによって手に入る未来ではなく、コントロールすること自体が心地よい “
わたしたちは普段から “成果を上げるために「計画」を立てるのだ” と信じて疑いませんが、“人は「計画」を設定すること自体が心地よく、それで大きな満足が得られる” としたらどうでしょう。
「PDCA」が計画倒れで終わってしまうのは、逆説的な言い方になりますが、“人は「P:計画」を立てることが好きだから” が大きな要因だといえるのかもしれません。
そして、なによりマネジメントとして重要なことはこの人間性を理解すること、そうすれば例えPDCAを上手く回せていない部下がいてもそれを頭ごなしに怒鳴りつけることにはなりません。
更には、組織として成果を上げることがマネジメントの責任であるとするなら、いかにPDCAを上手く回すかはマネジメントの任務となります。
- スタートと最終ゴールの大きなスパンでPDCAを回すのではなく、もっと小さなサイクルでPDCAを回す
- 計画は上手くいくという未来の安易な想像を少しでも防ぐよう、仮説検証:計画した未来は約束されたものではないという意識をチーム内に醸成しPDCAを進める ・・・デミングは「C:監視。評価」は好ましくなく「STUDY:研究」に置き換えたPD S Aサイクルとすべきと主張していたそうです
- PDCAという考え方にこだわらず、実行とそのフィードバック、もちろん最小限の計画は必要ですが、という考え方で活動を進める
PDCAで取り扱うテーマ、組織の状況やその実力に応じたアプローチが必要になると思います。
最後にもうひとつ
「構築‐計測‐学習」というフィードバックループを通して、顧客も製品・サービスも生みだし育てるシリコンバレー発のマネジメント手法である『リーン・スタートアップ(エリック・リース)』 から
“大きく考え、小さく始め、素早く成⾧する”
PDCAについて書いていたらすっかり長くなってしまいました。
「倫理的行動(コンプライアンス)」と人間性の理解については次回にさせていただきます。
文責 原田 直弥