デミングの「深淵なる知識の体系」と品質マネジメント(その1)

これより4回にわたり、『デミングの「深淵なる知識の体系」と品質マネジメント』をテーマにコラムを書きます。
現場で実際に起きていることを、特にマネジャーや経営者が、どのようにとらえるべきかという視点、考え方のひとつとして紹介できればと思います。

セミナーなどで “デミングを知っていますか” と尋ねると、最近、特に若い人は知らないという人が多くなってきたように感じます。

W.Edwards Deming(W・エドワーズ・デミング)
1900~1993。米国の統計学者。1950年、占領下の日本を訪れて経営者らに統計的品質管理を教え、日本製品の品質向上の契機となる。1980年、米国企業が日本製品の輸出攻勢に押されていたとき、全米ネットのNBCがテレビ番組「If Japan can…Why can’t we」でデミングの日本での活動を取り上げ、一躍知られる。フォードなどに品質管理を指導し、米国経済復活に貢献した。
『危機からの脱出』(日経BPクラシックス) 著者について より抜粋

デミングは、経営者は彼が「深遠なる知識の体系」と呼ぶものを持つ必要があるとした。それは、次の4つからなる。

システムの理解
(Appreciation of a system)
供給業者、製造、顧客を含めたプロセス全体を理解する
ばらつきに関する知識
(Knowledge of variation)
品質のばらつきの範囲と原因を知るため、統計的標本化技法を利用する
知識の理論
(Theory of knowledge)
知識を説明する概念と知ることができる限界(認識論)
心理学に関する知識
(Knowledge of psychology)
人間性の概念

デミングは次のように述べている。「ここに挙げた深遠なる知識の体系の各部分は、別々に考えてはいけない。これらは相互に関連している。従って、心理学に関する知識は、ばらつきに関する知識なしでは不完全である」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 より抜粋

デミングの「深遠なる知識の体系」を品質マネジメントに照らし合わせてみると、4つのうちの3つ、

システムの理解は「品質マネジメントシステムそのもの:システムとして相互に関連するプロセスをマネジメントするプロセスアプローチの促進」、

ばらつきに関する知識は「統計的手法:デミングはキー特性や工程能力といった製品の特性に限らず、人々の個性もばらつきであり、それに伴う各人の組織内での役割や貢献を理解するのもマネジメントの重要な責任であるとしています」、

知識の理論は「予測(仮説)と検証という意味合いでのPDCA(デミングはPDSA(Plan-Do-Study-Act)と定義しています)」

へそれぞれ通じます。

一方、4つ目の心理学に関する知識‐人間性の理解は品質マネジメントにおいては、デミングがこれら4つを別々に考えてはいけないと強調しているにもかかわらず、かなり置き去りにされている感じがします。

JIS Q 9100には「倫理的行動(コンプライアンス)」「ヒューマンファクター」「製品(飛行)安全」といった人間性の理解とのかかわりが深い要求課題があります。

次回からこれらの要求課題について、現場で実施に起きていることを心理学の知見や人間性の理解に基づきどのようにとらえるか、その視点や考え方、それは複雑で多岐にわたるため今回はその一面となりますが、をみていきたいと思います。

文責 原田 直弥