あるQAマンの体験記 第30回 コストの意識を変える! 

 

日本電産は、永守社長(当時、現在は会長)の大胆な発想でM&Aを繰り返し行いながら企業の規模を大きくされてきたという経緯があります。M&Aで失敗をしない秘訣がある。それは、“技術は高いが、人の心がすさんだ会社を買うことである”というようなことをよくおっしゃっていました。

技術は一朝一夕では、伸ばせないが、人の心は短期間でも変えられるからということです。実際に、精密工業の会社を買収した時には、1年の半分くらいをその会社のために社長自ら改革の指導をされたということもお聞きしました。

 いわゆる3Q6Sの憲法の徹底です。
3Q6Sとは、6Sの整理、整頓、清潔、清掃、躾、作法の6つのSを守ると、3Qの人の品質、製品の品質、会社の品質の3つのQualityがついてくるというものです。

 買収した会社でこの話をされると6Sを守って本当に会社がよくなるの?との疑問を呈する人が多いようですが、考え方を一つひとつ変えていくことで、それがどんどんいい方向に向かっていくということもあるのだと思います。

 実際に廊下の照明器具を一個おきに消すとか、消耗品をまとめて購入し単価を下げるとか、生花を手間のかからない造花に変えるとか、一つひとつは小さいことですが、一人ひとりの意識を変えていくと大きな力になるということを永守社長は、証明されてきました。

一人の百歩より、百人の一歩ともいわれています。現実に、買い取った会社が翌年に創業以来の利益でV字回復を実現されたこともあったようです。

コスト意識ということで、本社で経験したことを最後に少しお話します。設備稟議を上げる時にひとつのルールがあって、5段階ネゴと言っていました。見積もりを取るときには、この5段階、即ち5人の人が実際にネゴして、どれだけ価格を下げたかを書くことになっていました。

最終ネゴは、部長クラスがすることになっており、私も何度か業者に直接に電話して「これでは厳しい社長に通らない」というと何がしか、見積を下げてくれたものです。電話一本で、ものの1分間で2~3万円下がることもあり、これをやらない手はないなと思ったものです。

永守社長が直々に価格ネゴの結果を見られて、値引きが少ないと、下げろと直筆のメモを返してこられるのです。忙しい社長がよくここまで出来るなと思ったものです。それで再度ネゴをするのですが、下がらないこともある訳で、その場合には、最終のネゴには、これ以上応じてくれなかった理由書を書いて再度上程することになっていました。そこまでやって下がらないなら社長も諦められたのか、「しぶしぶOK」とまた達筆の直筆で理由書が返ってくることも何度かありました。

大企業でありながら、社長ご自身がここまでコスト低減を実践指導されている姿に驚きを感じたものです。また、コスト削減には際限がないものだとも・・・。

現在、創業者一代で連結売上額が1.6兆円規模で、グループ従業員が世界中で11万人の規模の会社に成長させられた方の素顔の一つであることも事実なのです。

文責 山本 晴久

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