あるQAマンの体験記 第22回 精密小型スピンドルモーターという製品の難しさ

 前職では、航空機/宇宙機器関連部品を生産している工場で、扱う製品は、軽量化のため薄肉で変形しやすく、難削材で且つ複雑形状の部品で加工も検査も難しいものでしたが、新しく担当することになった小型精密モーターでは、部品が非常に小さく(スピンドルシャフトは、直径3mm、長さ10mm程度のものもあり)また、精度も非常に高いものであり品質を作りこむのに大変苦労するものでした。

製品の特長、モノ作りの特徴などから製品の難しさを少し考えてみます。

  1. 日本で開発されたものを海外工場で生産
    ・国内の生産拠点では、生産工程/設備など枯らしができたが、サンプル生産(試作)のみを国内で実施し、本格生産は海外に移管されるようになり、工程がすぐには安定しないという問題があった。
  2. 超小物部品で加工が非常に難しく高度の加工技術/検査技術が必要
    ・3mm位の直径の部品で0.5μm程度の精度を持った加工技術が必要とされた。機械式腕時計の部品サイズ位のものであった。
  3. 組立が手作業に依存
    ・小さい部品を組み立てるためスキルが必要で、また、繊細な作業となるため作業ミスが起こりやすかった。
  4. モーター特性を保証する試験装置が技術の限界
    ・モーターの不規則な振れまわりは、0.1μmのオーダー(100nm)の要求があった。いわゆるGR&R(測定器の精度と再現性)の要求を満足するのが至難の業であった。
  5. 生産量が非常に大
    ・最も大きな工場では、月産1000万台のモーターを作っていた。日産では40万台というとてつもない量産であり、一つ間違うと不良の山になる。
  6. 非常に厳しい清浄度を要求
    ・部品が汚れていると組み立てた後、ハードディスク内が汚れ、データの読み書きが出来なくなる。清浄度の非常に高いエリアで作業しなければならない。
  7. 厳しい信頼性要求
    ・ロット保証のための信頼性試験を実施し、製品の信頼性を保証している。試験でFailすると故障解析が非常に難しかった。
  8. Failure Costが大
    ・不適合が発生すると量産規模が大きいので大きなロスが一気に生じる。 
  9. 厳しいRoHS規制
    ・電子/電気機器における特定有害物質の使用制限についての欧州連合指令の適用を受けカドミウム、水銀、六価クロムなどの使用などが禁止され安全規制証明で保証する必要があった。

など製品の難しさの要因は、多岐に亘っていました。

ハードディスクドライブ(HDD)のメーカは、このモーターの他、それぞれの部品専門メーカからベース(全体を組み込む筐体に相当する)、ディスク(メディア)、磁気ヘッド、電気回路、アクチュエータなどを購入し最終製品を組み立てていました。

HDDの最終製品メーカは、日本の他は、米国と韓国のみで、全世界で7~8社と限られ、テクノロジーレベルは、非常に高い製品でした。小さい部品で高精度の加工が必要でそもそも日本の得意な製品分野です。

得意分野とはいうものの筆者がこの業界に移ってきた頃には、すでに製造コストの削減のためモノ作りは東南アジアなどで行われるようになってきていました。さすがに開発設計は、日本で行うことで技術を守っていました。産業の空洞化と言われてずいぶん経ちますが製品開発能力など守るべきものは、国内で守り抜くことが必須でしょう。

この分野の製品は、開発から量産まで一気に行われ、ライフサイクルも3年程度で短く、次々に改良された新製品を開発し続けるものです。一方、航空機は、部品点数が300万個以上と言われ、開発に8~10年をかけ、数100機の生産規模で、製品のライフサイクルも30年以上といわれています。HDDと航空機とでは、大きさ、システムの複雑さ、生産形態など両極端の差があります。

筆者は、その両方の品質保証を担当する機会に恵まれたわけで本当にいい経験をさせていただきました。

文責 山本 晴久

 当社では主に航空宇宙の品質に関わるご支援をしております。
 以下、リンクです。
JIS Q 9100:2016 認証取得支援
Nadcap 認証取得・更新支援
JIS Q 9100:2016 規格解説セミナー
JIS Q 9100:2016 内部監査員養成セミナー
・その他、お気軽にお問合せください。

名古屋品証研株式会社