あるQAマンの体験記 第18回 開発試験に品質保証は馴染まない!

前回、技術品証課の話を少ししましたが。今回は、この中で筆者が担当した開発試験の品質保証の立ち上げの話をしたいと思います。

そもそも開発試験は、研究部というところで行われていました。因みに、開発試験にもいろいろフェーズがあり、例えば宇宙機器開発では、主要な供試体には、下記のようなものがあります。

  • BBM (ブレッド・ボード・モデル):
    新規技術要素を有する開発において、設計の実現性を確認するために製作・試験されるモデルで初期段階に製作し試作機的役割を持つ。
  • EM (エンジニアリング・モデル):
    基本設計に基づき製作し、機能・性能・環境試験に供するもので、設計の妥当性を確認し、次の詳細設計段階に移行するための設計を固めるためのデータを取得するためのモデル    
  • PM (プロトタイプ・モデル):
    詳細設計に基づき基本的に実機と同一仕様(部品、材料、加工)で製作されるモデル

航空機でも基本的には同じ考えで、開発試験の最終段階では供試体そのものの保証も重要になってきます。これらの技術試験を通じてその試験成果が製品に反映されていくからです。そこで万一供試体そのものが保証されていないとそこで取得したデータの意味がなくなります。

防衛庁(現在は省)の開発機種で行われる試験の詳細は、あらかじめ顧客に承認された試験計画書に規定されています。この計画書通り試験を進めることになりますが、試験担当者任せでなく、品質保証の目で確認しようと考えたのです。

主要なポイントとしては、

  1. 供試体の保証:
    ・試験結果に影響する供試体の不適合などがないか?
    ・供試体の形態などはよいか?
  2. 試験のセットアップの保証:
    ・セットアップに使う治具などに問題はないか?
    ・試験結果に影響するようなセットアップの問題はないか?
  3. 試験実施の保証:
    試験項目などすべて実施されたか?
    試験中に特
  4. 試験データ取得の妥当性の保証:
    ・データが適正に取得できたか?

などが求められます。

当時(技術品証課発足前)は、試験担当者が自ら保証することになっていましたが、品質保証面での何らかの管理が必要と考えました。そしてそのヒントを航空機関連製品の組立/検査に使われているPIR  BOOK(PIR:Production Inspection Record)に求めました。

PIR  BOOKは、航空機の機体組立に使われる製造ドキュメントで組立の作業手順が工程毎に規定され、作業/検査の工程が完了する度にサインオフしていくもので、更に追加作業、不適合処理などが発生するとその履歴をこのBOOKに記入していきます。

このPIRのPのProductionの代わりにEngineering Testの頭文字ETをとってETIRと名付けたものを使うことにしました。試験手順をブック化し、先に述べた1~4のポイントなど試験担当課任せでなく、品質保証担当者も必要に応じて立会で確認するというルールとしました。

このルールを採用することにより、試験担当者自身が試験計画書通りの試験を実施するという意識を高め、かつ試験実施の状況が記録に残るという利点がありました。

当初、試験部門のマネージャーから、開発試験には柔軟な対応が必要で品質保証に馴染まないとの発言もありましたが、実施していくにつれて”これもありか”という考えに変わっていきました。品質保証の原点は、記録を確実に取るということだと思いますが、ここでもそれを学んだ気がします。

文責 山本 晴久

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